<迅速・簡便・低コストで行うはじめの一歩の細胞培養実験>

** カバーガラス細胞培養法(CG法)による動物細胞の形態とその変化の観察 **

(実験学習に用いる「CG樹脂ネット細胞培養法」は「ココ」をクリック)

・・ このシートは「テキスト形式」:別様は図一覧形式」 と 「スライド形式 ・・
本編の上位サイトは「細胞実験解説集」である。

**下図をクリック拡大表示し、連続スライド形式で利用しよう**

本編の 〔目次〕 へはココをクリック

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(画像クリックで拡大表示: 左 Fig.0   中 Fig.00   右 Fig.000) 
**本編の主要なイメージ**

上図:カバーガラス培養法による染色細胞像(クリスタルバイオレット染色)
 固定染色したFHLS細胞は、細胞質内の液胞も散見されるが、細胞核、核小体、細胞骨格(アクチン束)、糸状仮足や葉状仮足など、細胞接着の様子や基本的な細胞形態が明瞭に観察される。仮足とは、染色性が低い細胞の偏縁部であり、主要な細胞小器官は観察されず、薄く伸展した細胞膜と細胞骨格により構成され、その波うち運動により移動を可能とする部分。接着伸展が未熟な細胞、つまり培養初期など、では細胞は球状のまま濃染され観察される。

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本編の構成(目次)

1. カバーガラス細胞培養法の概要(要旨) 

2. 本編で「行うこと・できること」の主要なイメージ(画像9コマ解説) 

3. カバーガラス培養法の経緯と必要性

4. 実験材料(必要物品一覧)

5. 実験方法(動物培養細胞の染色標本の作製と観察
  *はじめに:概要、 
  *Step 1. カバーガラス細胞培養器の作製
  *Step 2. 細胞液の調製:遠心/再浮遊
  *Step 3. 細胞液の添加と培養
  *Step 4. 固定染色、  *結果:顕微鏡観察像

6. 実験学習のポイント(実験条件)

7. 改良型カバーガラス培養法による発展実験(生細胞のライブ観察
  a.はじめに、 b.カバーガラス薄槽培養法とは、 
  c.カバーガラス薄槽培養器の作製、 d.生細胞のライブ観察法
  e.光軸傾斜法とその観察細胞像、 f. ライブ観察の補足
  g.カバーガラス薄槽培養による「お絵描き実験」

8. 補足解説: 動物培養細胞実験の特徴とその必要性 9.おわりに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*下記は本編の関連サイト:下記の文字列をクリックし、当該サイトへ移動・参照。
  (戻る時は 「TopPage」から、あるいは「細胞培養実験集」の文字列を用いる)。

 細胞培養実験集お絵描き実験細胞培養/培養細胞/培養実験の考え方専門

 学習における「細胞」の意味意義は:階層性:視座視点一覧学習マトリックス

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1. カバーガラス細胞培養法の概要(本編の要旨)

 本編は、多数の受講者を抱える実践学習の場においても、迅速・簡便・確実、加えて低コストで実施可能な「細胞実験キット(ACU131-2)を用いたカバーガラス細胞培養法(CG培養法)」の解説である。
 目的は、「動物細胞の基本形態、自律的な細胞運動(形態変化)の観察」の実施であり、用いた魚類株化細胞FHLSは培養面を認識し20分程度で球状から扁平な伸展細胞へと変化する。その結果は図のような顕微鏡像となり、動物細胞に関わる数多くの情報を提供する。
 方法は、1)スライドガラスの上にカバーガラスをテープで貼付け、ガラスペンで「液止めリング」を描き、2)フィルムバッグ細胞を遠心/再浮遊の後に、3)その細胞液をリング内に滴下、そのまま室温で静置培養、4)例えば20分後に固定・染色、で完了する。全工程の所要時間は30分程度である。
 本実験は、継続的・発展的な各種の細胞培養実験の手掛かりでもあり、また、基本単位「細胞」に基づく動物体の成り立ちの学習に対し「実体と概念の連立連携」の観点から「はじめの一歩」を提供すると考えられる。

補足:細胞培養には細胞の接着基質として優れた基板(固相)を必要とするが、本編で用いる「カバーガラスNEO」はその必要条件を十分に満たすため、少しの工夫で生細胞の顕微鏡観察なども可能である。本文には、基本CG培養法を改良した「カバーガラス薄槽培養法」によりその実際(概要)も付記する。

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2. 本編で「行うこと・できること」の主要なイメージ(画像9コマ解説)。

以下の図(Fig1からFig9)は本編で実施すること・結果的に得られる細胞像などの事例である。 画像の上をクリックし拡大画像として参照する(ここに戻る時は「テキスト」の文字列をクリック)。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.1   中 Fig.2   右 Fig.3) 

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  (画像クリックで拡大表示: 左 Fig.4   中 Fig.5   右 Fig.6 )
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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.7   中 Fig.8   右 Fig.9 )
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3. カバーガラス培養法の経緯と必要性

 細胞培養実験には専用の培養シャーレや倒立顕微鏡など専門的な器具機器を必要とする。それらは実践学習の場において実験導入に関わる制限要素ともなる。「細胞キットの利便性は実践導入に道筋を与えるが、シャーレなどの経費を考えると戸惑いも生じる」という生物教諭の意見には確かに頷ける。それでそのため、本編では「カバーガラス細胞培養法」をはじめの一歩の細胞実験として紹介する。つまり、カバーガラス培養法は一般的なシャーレ培養法の代替実験法であるが、そのシステム開発の経緯には経費削減に対する期待があった。
 例えば、通常用いる35mm培養シャーレの単価は50円程度であり、受講者多数の実験学習を想定すると確かに無視できないコストである。今回紹介する実験課題「細胞形態の経時的変化」を培養シャーレで実施すると一人あたり最低2枚のシャーレを必要とする。25人であればシャーレ50枚(2500円)、複数のクラスをイメージすると確かに高額となるが、カバーガラス(マツナミ:NEO、3620円/一箱200枚)は1枚18円、2つの培養面(液止めリング)なので必要数25枚の経費450円になる。つまり、カバーガラス法は培養シャーレ法に比べ約1/5の経費で実施可能なシステムである。
  なお、細胞液や各種試薬の必要量はシャーレ法の1/10程度であり、通常の学校顕微鏡に対応したカバーガラス標本の作製であること、また、これまでにない迅速簡便性に加え廃棄物の削減化など、結果的には多くの利便性も示されている。迅速・簡便・確実・低コストを兼ね備えた「はじめの一歩の細胞培養実験システム」として十分に通用すると考えたい。諸々の制約要素の解消に基づく細胞培養実験は生物教育に「実体と概念の連立連携」に基づく新たな視座視点を与えると考える。

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4. 実験材料:必要物品一覧

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<実験材料一覧>
*実施者が用意する一般備品には下線を付した(その他は細胞実験キットの構成品)。

□1)フィルムバッグ細胞、□2)10cmシャーレ、□3)ひな形台紙、4)スライドガラス(76x26mm)□5)カバーガラス(24x40mm NEO カバーガラス:MATUNAMU #C024401)、□6)スコッチメンディングテープ、□7)ガラスペン(パラフィン色鉛筆:TOMBO 紙巻き色鉛筆2285)、□8)細書き油性ペン、□9)ハサミ、□10)ピンセット、□11)ナイフ、□12)小型温度計(熱帯魚飼育用)、□13)一般的な遠心分離機(アングルローター、15mlバケット、1800rpm x 90秒)、あるいは卓上微量遠心分離機(微量遠心チューブ2ml容量、6500rpm程度で20秒)、□14)遠心チューブ、□15)栄研3号スポイト(切断加工により遠心チューブ、小試験管としても使用)、□16)細胞培養液(B-Med)、□17)小型携帯カイロ(使い捨て型)、□18)紙タオル、□19)50mlビーカー(チューブスタンドなどとして用いる)、20)固定液(G-Fix:グルタルアルデヒド混合液)、21)染色液(CV:クリスタルバイオレット)、□21)タイマー/時計、□22)使い捨て紙コップ(廃液入れ)、□23)小型ビニール袋(ゴミ入れ)、□24)太いアルミ線あるいは竹串(スライドガラスの枕として使用)、□25)水道流し、□26)必要に応じて油浸オイル、27)白色ワセリン、28)先細の綿棒

補足:2)10cmシャーレは作成した細胞培養ガラスの収容器(図を参昭)である。よって、その形状・サイズに制限はない。20)固定液は取り扱い注意であり、使用する時は「危険液」と明記し扱うこと。 3)の「ひな形台紙」はPDFを印刷して用いる:ココ

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.10   中 Fig.11   右 Fig.12)
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細胞実験キットACU131-2の構成品

カバーガラス細胞培養法に用いる実験キットの構成品は下記の項目を予定するが、利用担当者との連絡交信によりその他の物品なども考慮の上で、利用者人数などに対応させ、その数量を決定した後に宅配輸送されるものである。よって、下記は基本構成と考えている。

1)フィルムバッグ細胞(FHLS細胞 約10ml)、3)ひな形台紙、5)カバーガラス(MATUNAMI NEO)、14)微量遠心チューブ、15)栄研3号スポイト、16)培養液(B-Med:10ml)、20)固定液(G-Fix:グルタルアルデヒド混合液)、21)染色液(CV:クリスタルバイオレット)

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5. 実験方法(動物細胞の形態とその変化の観察)

概 要(はじめに)

 本実験ではカバーガラスを培養基質とし細胞培養を行い、結果的に染色細胞像を得る。その方法は4工程(下記のStep1からStep4)で完了する。つまり、1)スライドガラスの上にカバーガラスをテープで貼付け、ガラスペンで「液止めリング」を描き、2)フィルムバッグ細胞を遠心/再浮遊の後、3)培養液と細胞液をリング内に滴下、そのまま室温で静置培養、4)例えば20分後に固定・染色する。手技操作の詳細は下記を参照。

Step1. 細胞培養ガラスの作製

必要物品:□2)10cmシャーレ、□3)ひな形台紙、4)スライドガラス(76x26mm)、□5)カバーガラス(24x40mm NEO カバーガラス:MATUNAMU #C024401)、□6)スコッチメンディングテープ、□7)ガラスペン(パラフィン色鉛筆:TOMBO 紙巻き色鉛筆2285)、□8)細書き油性ペン、□10)ピンセット、□11)ナイフ、□24)太いアルミ線あるいは竹串(スライドガラスの枕として使用)、*利用者が準備する一般備品には下線を付した。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.13   中 Fig.14   右 Fig.15 )
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<Step1の操作手順:Fig13-15>

  1. ひな形(台紙)の上に、スライドガラス(76x26mm)とカバーガラス(24x40mm)を載せる。カバーガラス両端の2mm以内とスライドガラスをスコッチテープで貼付ける。テープには任意の識別記号を記す。
  2. ひな形に載せたまま、パラフィン色鉛筆(ガラスペン)、あるいは白色ワセリンを先細綿棒を用い、ひな形の円(太線:内径16mm,外形18mm)の上を、ゆっくり・はっきり重ね書きし、太線を塗り潰すように「液止めリング」を描く(円内は塗らないこと)。更に、黒紙の上に移動させ、塗りつぶしていないところを更に塗る。
  3. 完成した細胞培養ガラスはφ10cmシャーレなどに入れる。このとき、竹串などをV字に折り曲げ、スライドガラスの枕として利用する。枕があると「Step4.固定染色」の操作が容易になる。
  4. 細胞培養中の乾燥防止のため「水濡れ紙」を入れておく。完了。

補足:1)カバーガラスNEOは歪みに強い(曲げ強度がある)製品である。 2)貼付けテープの片側は折り返しを付け、取り外しが容易な状態とする。 3)ガラスペンによる「液止めリング」はできるだけ太線が塗りつぶされるように配慮する。ガラスペンの書き具合を「樹脂シート」の上で確かめてから作業を実施すると効果的。寒冷期は少しペン先を暖めると書き易くなる。または、ガラスペンの代用として「白色ワセリン」を先細の綿棒に付け、同様に塗りつぶす方法も効果的である。4)カバーガラスの上面は細胞の培養面(接着基質)となるので、できるだけ清浄な状態を維持する(指などで不用意に触らない)。 5)10cmシャーレは、作成した細胞培養ガラスの収容器(図を参昭)である。その形状・サイズに制限はない。多数の細胞培養ガラスを同時に使用する時は「平底トレー」などを用いる。

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Step2. 細胞液の調製(遠心/再浮遊)

必要物品:□1)フィルムバッグ細胞、□8)細書き油性ペン、□10)ピンセット、□12)ハサミ、□13)一般的な遠心分離機(アングルローター、15mlバケット、1800rpm x 90秒)、あるいは卓上微量遠心分離機(微量遠心チューブ2ml容量、6500rpm程度で20秒)、□14)遠心チューブ、□15)栄研3号スポイト(切断加工により遠心チューブ、小試験管としても使用)、□16)細胞培養液(B-Med)、□18)紙タオル、□19)50mlビーカー(チューブスタンドなどとして用いる)、□21)タイマー/時計、□22)使い捨て紙コップ(廃液入れ)、□23)小型ビニール袋(ゴミ入れ)、利用者が準備する一般備品には下線を付した。

<Step2の操作手順(図説は解説文の下)>
 〔一般的な遠心分離機(15mlバケット、1800rpm x 90秒)の場合〕

  1. 遠心チューブ(切断スポイト)の作製:栄研3号スポイト(2本)のメモリ1.5のラインをハサミで切断する(遠心チューブとして利用、1本はバランス用)。補足:この操作による「切断スポイト」は、以下の操作で、例えば「小試験管」などとして繰り返し作成・利用する。
  2. 「フィルムバッグ細胞」の確認と開封:細胞のフィルムバッグを摘み持ち目視観察する。細胞の塊が見えるはず。異常がないかを確認する。補足:顕微鏡にフィルムバッグをセットして低倍率で観察すると細胞の塊が見えるはず。
  3. フィルムバッグを手のひらに載せて、水平振動を加え細胞液を十分に流動させ、巨大な細胞の塊を分散させる。目視確認する。
  4. 50mlビーカーなどに細胞のフィルムバッグを立て、ジップロックシールの上(溶着シールの下)をハサミで切り取り、バッグを開封する。
  5. ポンピング部を押しつぶした状態で、栄研3号スポイトをバッグに差し込み、ポンピング操作を数回行い、細胞を分散させる。目視確認。
  6. その細胞液を、必要量(例えば3ml)を、上記で作製した切り取りスポイト(遠心チューブ)に加える。バランスチューブには同量の水。
  7. 遠心分離機に細胞液のチューブとバランスチューブをセットし、1800rpmで90秒の遠心処理を行う。温度設定は必要としない。微量遠心分離機を使用する場合の遠心条件は下記を参照。
  8. 上澄みの除去:紙コップの上で遠心チューブを逆さまにして上澄み(上清)を捨てる(液が途中で止まったポンピング部を軽く押して排出)。肩口に液が残ったら軽く振り回してできるだけ排出する。スポイトの切り口の余液は紙タオルの上で吸引する。(上澄みはできるだけ残らないようにする:重要)。
  9. タッピング処理:チューブの底を目視し、細胞のペレットができていることを確認の後、チューブの底をテーブルに20回程度打ち付け(タッピング処理)、細胞のペレットを分散させる。
  10. 遠心分離した細胞液と同量の培養液(B-Med:この場合は3ml)を新しいスポイトに取り、遠心チューブに加え、数回ポンピングし細胞を再浮遊させる。完成:その細胞チューブはスポイトと一緒に小型ビーカーなどに立て置く。
  11. 次の工程(Step3:細胞液の添加と培養)へは休みなく進める。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.16   中 Fig.17   右 Fig.18 )
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〔卓上微量遠心分離機の場合〕

  1. 微量遠心チューブ(2ml容量)に細胞液(例えば1.5ml)を加え、遠心バランスを確認の後、6500rpm程度で20秒処理する。
  2. その後の操作は、上記の8.「上澄みの除去」から同様に従う(但し、この場合の再浮遊の培養液の量は1.5ml)。 下の解説図を参照。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.19   中 Fig.20   右 Fig.21
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Step3. 細胞液の添加と培養

事前確認/諸注意:1)細胞培養中に振動を与えると細胞運度(接着伸展運動)が阻害される。よって、シャーレを置く場所(静置培養を行う場所)は事前に確定しておく。本解説ではテーブルの片隅で静置培養を行うことを想定して記述する。 2)細胞運動は温度依存性であり、最適な培養温度は25℃から30℃が適している。3)室温が低い時は、インキュベーター、または「使い捨ての小型携帯カイロ」などを用いる(本編では、小型カイロを利用し温度設定した場合を以下に解説する)。4)温度設定法とその効果は事前に試しておく。

必要物品:□Step1で作成した細胞培養ガラス、□8)細書き油性ペン、□12)小型温度計(熱帯魚飼育用)、□15)栄研3号スポイト(切断加工により小試験管としても使用)、□16)細胞培養液(B-Med)、□17)小型携帯カイロ(使い捨て型)、□18)紙タオル、□19)50mlビーカー(チューブスタンドなどとして用いる)、□21)タイマー/時計、□22)使い捨て紙コップ(廃液入れ)、□23)小型ビニール袋(ゴミ入れ)、□24)太いアルミ線あるいはビニール線(スライドガラスの枕として使用)、* 利用者が準備する一般備品には下線を付した。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.22   中 Fig.23   右 Fig.24 )
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<Step3の操作手順:Fig22-24>

  1. スポイトに培養液(C-Med)を吸い取る。シャーレを開け、カバーガラス液止めリングの中央に、培養液6滴(約250μL)を滴下する。続いて、再浮遊させた細胞液を3滴(約120μL)ほど滴下する。
  2. シャーレの蓋をしてテーブルの片隅に静置する。寒冷期の時は、シャーレの蓋の上に小型携帯カイロを載せ培養開始とする。開始時刻をメモ書きする。所定時間が経過したらStep4へ。
  3. 本実験の目的は「運動性に基づく細胞形態とその変化」なので、培養時間は、5分と20分(あるいは30分、又は40分)程度とする。

補足:1)詳細は省略するが「培養液→細胞液」の順で操作することは重要である。2)培養ガラスには2つの培養面があるので「培養時間の違いによる細胞形態の差異」のために利用する。そのため、例えば、ひとつは10分後に固定液を加え、他は30分後に固定液を加える。よって、培養時間が短い実験区は終了10分前に細胞液を滴下する、と考え実施する。

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Step4. 固定染色

操作前の注意:固定液や染色液は素肌に付かないように注意しながら・工夫を加えて取り扱うこと(素肌に付いた場合はすぐに水洗すること)。また、他の物品溶液と混同することのないように「名称記号」を明記し取り扱うようにすること。

必要物品:□15)栄研3号スポイト(切断加工により小試験管としても使用)、□18)紙タオル、□19)50mlビーカー(チューブスタンドなどとして用いる)、□20)固定液(G-Fix)、□21)染色液(CV)、□21)タイマー/時計、□22)使い捨て紙コップ(廃液入れ)、□23)小型ビニール袋(ゴミ入れ)、□24)太いアルミ線あるいは竹串(スライドガラスの枕として使用)

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.25   中 Fig.26   右 Fig.27)
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<Step4の操作手順:Fig25-27>
事前確認/諸注意:固定液の使用時は「危険液」と明記し取り扱うこと。

  1. 終了時刻になったら、固定液を滴下するため、紙タオルの「コヨリ」などで培養液を少し吸い取る。
  2. 固定液を、培養液の上に1滴ほど滴下し、1分ほど放置する。
  3. 終了後、固定液が手に付かないように注意しながら、培養ガラスを水コップ(又は流水の水バット)に30秒くらい浸し、固定液を除く。水コップの時は2度目の水洗も行う。なお、未染色状態の細胞を観察する場合(標本とする時)は、水洗を繰り返した後に、乾燥・(封入)・観察、である。
  4. 紙タオルでスライドガラスの裏面の水濡れを除いた後、シャーレに置き、染色液(CV)を培養面(サークル内)に十分量(4滴ほど)を滴下し、2分くらい放置し染色する。
  5. 水バット、あるいは水コップに30秒ほど浸けて染色液を除き、水切り乾燥で完成。
  6. すぐ観察の場合は次の水封入法で観察を行う。

<水封入による迅速観察>

    1. 水分を拭き取ったスライドガラスを紙タオルの上に置き、ガラス中央に水1滴を滴下。
    2. カバーガラスの細胞染色面を下にして「滴下水」の上に載せる(カバーガラスは自然に張り付く)。
    3. ガラス表面の水濡れを紙ナプキンで丁寧に吸水除去。ただし、カバーガラスを押し付けてはいけない。
    4. 「水封入標本」を顕微鏡にセットし細胞像を低倍・高倍率で「構造:要素の配置と繋がり」の観点から観察。
    5. 水封入細胞標本(カバーガラス)を剥がす時は、紙コップの水に数分浸し、軽く揺すると自然に剥がれ落ちるはず。ピンセットなどを用いてCGを丁寧に取り出す。乾燥して保存。
    6. 乾燥標本は封入なしでも観察が可能であるが、より明瞭にするには下記で封入標本とする。

補足:ドライ封入標本の作り方

 封入標本を作る場合、その封入剤は化粧品(爪トプコート:100円ショップ)の超速乾性(60秒で乾燥)を用いる。その他の封入剤を用いると時間経過とともに脱色するので注意。
1)綺麗なスライドガラスの中央にトップコートを少量滴下する。 2)CG培養染色標本の細胞面を下にしてトップコートの上に載せる。 3)十円硬化など軽いオモリをカバーガラスの上に載せ、ゆっくり密着させる。

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結果:顕微鏡観察像(事例)

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.28   中 Fig.29   右 Fig.30 )
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図(細胞像)の説明:カバーガラス細胞培養法による染色細胞像(クリスタルバイオレット染色)
 
 動物細胞は2重膜シャボン玉のような「膜系構造体」である。浮遊状態ではよって「球状」であるが、培養により接着伸展すると細胞骨格(特にアクチン線維)の再編成により扁平な形状となる。インテグリン-ECM(細胞外マトリックス/接着基質)の結合とは、シグナル伝達の最初の一歩であり、インテグリンの裏打ち構造に変化をもたらす。つまり、細胞骨格の再構成である。
 固定染色したFHLS細胞は、細胞質内の液胞も散見されるが、細胞核、核小体、細胞骨格(アクチン束)、糸状仮足や葉状仮足、接着斑(細胞と基質の結合部位)など、基本的な細胞形態が容易に明瞭に観察される。仮足(Fi30:拡大表示)とは、染色性が低い細胞の偏縁部であり(図を参照)、主要な細胞小器官は観察されず、薄く伸展した細胞膜と細胞骨格により構成され、その波打ち運動により移動を可能とする部分。接着伸展が未熟な細胞、つまり培養初期など、では細胞は球状のまま濃染され観察される。よって経時的な標本作製により、細胞の形態変化(細胞運動)の観察が可能となる。
  細胞の基本的な変化は、未接着の球状細胞→接着した球状細胞→扁平な伸展細胞→配列状態の細胞(細胞コロニー)→(分裂増殖)→(接触阻害)→(上皮様配列細胞) →(細胞死/アポトーシス)、である。

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6. 実験学習のポイント:細胞運動に影響を及ぼす実験条件ついて

 動物細胞は、足場となる接着基質(ECM)を認識し、インテグリン-ECM結合により接着・伸展運動(シグナル伝達による細胞骨格の再構成)を開始し、形態を変化させ、更に移動・配列し単層の細胞シート(上皮様形態)を形成する。このセンテンスの前部は本編解説の実験の基本命題(実験原理)であり、その主題は「細胞運動:その形態と変化の観察」である。後半はその発展実験と位置付ける「お絵描き実験:形態形成に関わる基礎実験」における課題であり、接着基質(ECM)など細胞が生きるに必要な数々の重要な要素が含まれる。つまり、本細胞実験系は「動物細胞の基本的な性質の観察と理解」を主な目的としているが、それぞれには実験を成立させ得る(に影響を及ぼす)実験条件の考察も含まれる。それらの考察は実験学習の構造化に不可欠であり、学習者の視座視点に深みを与えると考えられる
 例えば、本実験の方法は上述の「4.実験方法」に従うものであるが、細胞運動・細胞形態に影響する実験条件は、1)培養時間、2)培養温度、3)細胞密度、である(とする)。そこで本節ではこれら要素の取扱いについて、その考え方とその対応法の概要を記し、独自の実験プラン立案に向けた参考としたい。但し、「細胞培養ガラス」の培養面は2面(リング)であり、フィルムバッグ細胞は10ml、培養液が20mlであるので、細胞実験キットにより設定可能な実験区の数は最大40面(細胞培養ガラス20枚)である。

〔1.培養時間〕
 培養時間とは短絡的には「待ち時間」であるが、細胞自身にとっては「自律的な活動時間」であり重要である。そこで、本実験では時間差をつけて細胞液を添加し、固定処理は同時に行う、という方法で培養時間の違いを設定する(ことも可能である)。細胞運動は温度依存性であるが、例えば培養温度を28℃程度に設定した場合、培養初期の球状細胞は10分ほど経過すると急速に形態を変化させ扁平な伸展細胞となる。更に、培養すると、充実した伸展状態となる。よって、5分、10分、20分、30分(あるいは40分)間隔で細胞液を培養面(4つ)に加え培養を行い、固定染色は同時処理として細胞形態を評価する。但し、未接着の細胞は固定時に除去され、伸展細胞の上に位置した細胞は多くが球状のままに観察される。注意:細胞液を添加する時は、改めて均質な細胞浮遊液となるように軽くポンピング操作を行った後に行う。シャーレ蓋の開閉時に振動をできるだけ与えないこと、がポイントとなる。

〔2.培養温度〕
 培養温度の違いから細胞運動・形態変化を確認する。つまり、最適培養温度28℃に加え、5℃間隔で設定する。例えば、18、23、28、32、37℃。水温の違う水袋をシャーレの上に乗せる、などにより温度区を設定する。培養時間は20分程度とする。

〔3.細胞濃度〕
 動物細胞は基質(ECM)との接触反応により細胞運動を開始するが、隣接細胞との接触に対しても反応する。いわゆる、細胞-基質間結合、細胞-細胞間結合に関係した現象である。ここでは底面に沈下した細胞が隣接細胞と接触する場合とそうではない状態を細胞濃度の違いから検討する。
 つまり、1)高い細胞密度(細胞濃度)で培養すると細胞は隣接細胞の影響を受け伸展速度は遅くなる。2)沈下した細胞の上に乗ってしまった細胞は接着基質との反応ができないため伸展運動への移行ができない(球状のまま)。3)底面に接着伸展した細胞は隣接細胞と接触状態になるが、しかし、細胞の伸展部(仮足部)などが重なり合うような行動は示さない。つまり、4)伸展配列を示し細胞集団(コロニー)を形成する。
 高密度の実験区は、培養面に添加する細胞液の量(滴下量)の違いから設定するが、培養時間にも配慮し上記の状態(細胞集合体の形態など)を評価する。なお、細胞シートの形成(上皮組織様形態)とその意味意義の考察を目的とする場合は、本実験の発展実験と位置付ける「お絵描き実験」において実施を予定する。

〔4.その他の情報〕
 細胞培養実験には種々の要素・条件が関連するが、細胞実験キットを用いた実験学習のため、本編では最小限の解説としたが、更なる情報を得たい場合はサイト「細胞培養・培養細胞・細胞培養実験の考え方」を参照してほしい。

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7. 改良型カバーガラス培養法による発展実験(生細胞のライブ観察)

a. はじめに

 本編で解説した実験方法に従い「はじめの一歩の細胞実験:カバーガラス細胞培養法」を経験すれば、実践学習の場において対応可能な細胞実験の状況や現状への理解も深まると考える。いずれにしても学校教育の一環として取り組みを考えるには少しと努力と工夫も必要であるが、同時に、細胞実験キットを用いた発展実験も可能となる。
 例えば、その第一の発展実験は「培養細胞を用いた組織形成(形態形成)に関する基礎実験:通称 お絵描き実験」と考えている。この実験には培養シャーレを必要とするが、動物体の成り立ちに関わる多くの情報の提供となるため、発展実験としてはかなり効果的である(その詳細は別様テキストを参照:ココをクリック)。または、実験キットの利用者の多くが希望する実験課題のひとつに、通常の学校顕微鏡によっても可能な「生細胞のライブ観察」があげられる。本編で作成した染色細胞の観察に平行し実施することは確かに有効である。
 ところで、本編では「カバーガラスNEO」が安価であることに加え、細胞培養に不可欠な「接着基質」としての特性においてもかなり優れていることを述べた。つまり、カバーガラス法でその他の発展実験が可能であれば、その利便性・実用性・発展性は更に高まると考えられるが、しかし、本編紹介のカバーガラス培養法には回避しがたい欠点もある。つまり、1)ガラスペンによる液止めリングでは保持可能な液量が少量(250μLくらいまで)なこと、2)培養液の気化(蒸発)・減少が生じ長時間の細胞培養には不向きであること、更に、3)手技操作を繰り返し加えると「液漏れ」などのトラブルが頻発すること、などである。
 つまり、本編紹介の単純カバーガラス培養法では、例えば、培養中の細胞を顕微鏡観察(ライブ観察)することはほぼ不可能であろう。また、「お絵描き実験」を行うためには60分以上の培養時間を必要とし、また、φ17mmの培養面でも最低1mlの液量を必要することから、上述のカバーガラス培養法では無理と考えられる。低コストも視野に入れた本法の改良が必要である。
 そこでここでは、上記の問題点の解消に向けたカバーガラス細胞培養の改良法「ホールパッキングを用いたカバーガラス薄槽培養法」を以下に紹介する。
 その狙いは、1)学校の明視野一般顕微鏡による「生細胞のライブ観察」であり、また、2)本格的な発展実験に向けた予備実験、あるいは細胞実験キットの有効利用法の事例と考えている。つまり、本編利用の実験キットの余りを利用し、マイクロ化した実験方法により「お絵描き実験」の可能性を考察するため、と考える。なお、それらに関わる本編の解説は概要のみとする。詳細などは別様のテキストで改めて解説することとする。

b. カバーガラス薄槽培養法とは

 カバーガラス薄槽培養法とは、カバーガラスと厚みのある「穴付き樹脂シート:ホールパッキング」を貼り合わせ、その穴(φ18mmの薄槽)を培養槽として利用する方法である(図を参照)。培養槽には約1mlの溶液の添加が可能となるため、長時間の培養も可能であり、また手技操作を同一培養槽にて繰り返し行うこと・加えることが可能となる。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.31   中 Fig.32   右 Fig.33 )
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c. カバーガラス薄槽培養器の作製(Fig31-33)

  1. 厚さ2mmのシリコンシート(あるいは透明軟質塩化ビニールシート)を24mm角(カバーガラスの大きさ)に切り取り、コルクボーラー(φ18mm)でシート中央に穴を開け「ホールパッキング」を作成する。
  2. そのホールパッキングの上面に、少量の白色ワセリン(あるいはシリコングリース)を綿棒で塗り付け、その上にカバーガラスを被せ、反転させた後に、軽く圧着し貼付ける。
  3. その結果、カバーガラスを底面(培養面)とし、深さ2mmの細胞培養薄槽が形成される。なお、実際に用いる時は、その培養器の支持台としてスライドガラスの上に置いて操作すると取り扱いが容易となる。

補足:各種の素材が「ホールパッキング」として利用可能かもしれないが、それぞれには一長一短があるので、以下にコメントする。何れにしても細胞毒性が出ないことが条件である。

*シリコンシート:最適。ホール作成も容易。ガラスとの密着性も良く、細胞毒性も生じない。繰り返し利用可能。
*軟質塩化ビニールシート:穴あけには図のような「穴開けパンチ」が必要。平面とするため熱湯処理と圧平処理が必要。使用前には70%EtOHに半日くらい浸し細胞毒性を除く。
*水道用のゴムパッキングあるいはゴムシート:使用前には70%EtOHに半日くらい浸し細胞毒性を除く。
*手芸用樹脂リング:貼付けには「シリコンボンド・グリース」を丁寧に塗り付け用いる。液漏れに注意。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.34   中 Fig.35   右 Fig.36 )
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d. 生細胞のライブ観察法: (Fig34-36)

 作製したカバーガラス薄槽培養器に、本編解説の実験方法に従い細胞液を添加した後、その上に清浄なスライドガラスを載せ、表面張力でシートと密着させれば密封系培養槽となる。そこでスライドガラスが下面になるように反転させ、逆さまにすれば、細胞の接着面(カバーガラス)が上になる。よって、一般的な顕微鏡でも細胞の観察が生きている状態で可能となる。下述の「光軸傾斜法」を用いると「微分干渉像」のように明瞭な観察が可能となる。薄槽培養ガラスを用いた「生細胞のライブ観察法」の手順は下記である。。

  1. 〔1〕で作製した薄槽のカバーガラスの中央に、細書き油性ペンで焦点合わせの目印となる「黒点」を付す。
  2. 上記2.の単純カバーガラス培養法の手順に従い細胞液を調整の後、培養槽(ホールパッキングの中)に培養液6滴、続いて細胞液を3滴ほど滴下し、5分から10分程度培養し、細胞をカバーガラス面に接着させる。その後、培養液を改めて滴下し「てんこ盛り」状態とする。
  3. 紙タオルの上にそのカバーガラス薄槽培養器を置き、続いてスライドガラスをホールパッキングの上に載せ軽く圧着させる。この時、培養液は溢れ出るがそのため表面張力による密着状態になる。
  4. その密封状態の薄槽培養ガラスを紙タオルの上に立て、余液を吸い取らせる。
  5. 続いて顕微鏡観察。液漏れに注意しながら薄槽培養ガラスを反転させ、焦点合わせの目印「黒点」を利用しながら、観察する。

e. 光軸傾斜法とその観察細胞像(Fig37-)

光源内蔵の場合:

  1. 目印「黒点」にフォーカスした後、「シボリ」を幾分閉じ、細胞が見える状態にする。
  2. 少しだけリボルバーを回転させ対物レンズを傾斜させる、(と同時に「黒点」をステージ移動で追いかけ)、更に焦点を合わせる。
  3. 少しずつ暗くなるので、光量を増大し、細胞像が立体的になるまでレンズの傾斜を上記操作に従い繰り返す。つまり、リボルバーを最大限に傾斜させる(完全に暗くなる前くらいまで)。
  4. その後、光量を最大にした後に、コンデンサーを動かし、明瞭な細胞像を得る。
  5. その状態のまま、ステージを動かし、目的としたい細胞像を探し観察する。その結果は図を参照。

反射鏡型の場合:
 この場合は、反射鏡を傾け対物レンズに向かう光軸を傾け、光量は最大としながら、上記の方法で試してみる。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.37   中 Fig.38   右 Fig.39 )
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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.40   中 Fig.41   右 Fig.42 ) 
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図の解説:Fig37のように正しい光軸で観察すると細胞像はFig39左のように不明瞭であるが、そのままその対物レンズを傾け上述の「光軸傾斜法」として観察すると、細胞は微分干渉顕微鏡像のように立体的な細胞像となる(Fig39右、その他)。これは学校具備の一般顕微鏡でも十分可能な現象である。 
 FHLS細胞は、細胞質内の液胞も散見されるが、細胞核、核小体、糸状仮足や葉状仮足など基本的な細胞形態が明瞭に観察される。仮足(Fig42:拡大表示)とは、染色標本では染色性が低い細胞の偏縁部であり、主要な細胞小器官は観察されず、薄く伸展した細胞膜と細胞骨格により構成され、その波内運動により移動を可能とする部分。仮足部分が隣接細胞と接触すると細胞はその反応(シグナル)により相互に重ならないような行動を示す。

f. ライブ観察の補足(Fig43-45)

 本編の主旨とは異なるが、生細胞のライブ観察は、培養シャーレの利用が可能な場合には、素早く簡単に行うことができる。すなわち、培養シャーレのフタの内側周囲にシリコンボンドを塗り、細胞培養中のシャーレにそのフタを被せれば、密封状態となり、反転させれば一般顕微鏡でも細胞の観察が可能となる。観察終了後は培養面を下にして培養を継続する。但し、擬似-微分干渉像の見え方はCG培養法に比較し低減する。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.43   中 Fig.44   右 Fig.45 ) 
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g.カバーガラス薄槽培養による「お絵描き実験」

 「お絵描き実験:培養細胞を用いた形態形成に関する基礎実験」は培養シャーレを用い各種の考察や協議を加えながら実施することが望ましいく、また本編に記した細胞実験キットには本実験に必要な材料が含まれていないが、しかし、上記のカバーガラス薄槽培養法を用いればマイクロ実験として別の機会に改めて実施することも可能であると考える。ここでは、下図を掲載し、そのイメージのみを伝え、終わりとしたい。「お絵描き実験」の詳細は別サイト(お絵描き実験)を参照。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.46   中 Fig.47   右 Fig.48) 
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8. 動物培養細胞実験の特徴とその必要性

 動物培養細胞実験、いわゆる「細胞培養技術」に関わる基本的な考え方の要点を以下に列記する。

1) 「培養細胞」とは、生体組織から摘出されシャーレなどで人為的に維持管理される細胞のこと。なお、繰り返し操作を加え継代培養が可能な細胞は「株化細胞」と呼ばれる。 

2) 「細胞培養」とは、生体組織の細胞が生きるその存在様式(微小環境)を人為的にシャーレなどに再現することである。なお、 

3) 動物細胞の基本的な性質は「足場依存性」であり、「細胞シートの形成」を基本とする。 

4) よって、一般的な動物細胞は、培養容器(培養フラスコなど)に「3層構造」として維持管理される。つまり、「固相、液相、気相」を必要とする。

5) 「固相」とは、細胞が接着基質とする容器底面であり、生体においては基底膜や細胞外マトリックス(ECM)などが相当する。 

6) その接着細胞を覆う「液層」とは「培養液・培地」であり、いわゆる生体基本分子(無機塩、糖、アミノ酸、ビタミン、血清、あるいは細胞増殖因子・ホルモン)の混合液、つまり、生体物質代謝の成分に相当する。 

7) 「気相」とは培養容器の液層上部に位置する空気層であり、気相-液層-細胞層としてガス交換、つまり「内呼吸・エネルギー変換」などに関与する。

8) つまり、培養細胞が生きるに必要な基本条件とは「接着基質、基礎培地、必須添加物(増殖因子やホルモンなど)」の3要素の充足であり、その他として「培養温度、無菌性、pH維持、細胞の継代維持」などを必要とする(細胞培養3要素+α)。

9) その結果、細胞培養を開始すると細胞は容器底面(接着基質)上で、接着・伸展、移動・配列、分裂・増殖、接触阻害などの基本現象を示し、多くの培養細胞は「単層細胞シート:上皮様形態」を形成する。必要に応じて機能分化の様態に変換することも可能である。 

10) よって、細胞培養実験とその経過・結果は「生体組織細胞との類似性」から考察すべき対象となる。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 上述から俯瞰する細胞培養実験とは、いわゆる「動物代替実験系」であると同時に、その構成要素・様態の詳細は、「細胞の分子生物学」に関わる状況・現象そのものである。
 つまり、仮に「細胞培養実験」が実践学習の場においても容易に導入が可能な対象(実験教材)であるなら、その学習と考察のベクトルは必然的に無理なく動物個体の成り立ちに加え、分子レベルに基づく「形・役割・由来とその仕組み」へも向かうと考えられる。
  例えば、「細胞自身は何をしている・どうのようにして生きている」といった簡単明瞭、且つ極めて重要な共有命題の提示がはじめて可能となる。つまり「細胞機能とその仕組み」といった分子レベルの学習であり、よって、細胞実験は学習者へ具体的且つ統合的な視座視点の提供を可能とすると考えられる。共有命題に基づく優れた考察への道筋に明確な起点を与えると考えられる。 この観点についてはサイト「階層性:視座視点一覧」あるいは「細胞生理の基本」を参照。
 なお、細胞に関わる詳細は「細胞の分子生物学」などを参照としたい。また、それらの理解に基づく本編の利用は有意義と考える。

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9. おわりに:

 以上、細胞培養技術に基づき実践学習の場に向けたその簡便法を記した。「技術」とは対象物の物性理解に基づき開発される方法である。多細胞動物の細胞はそこここに落ちているものではなく、生体組織の細胞に由来するものである。つまり、細胞培養とは「生体の組織細胞の存在様式/微小環境を再現すること」にその底辺を持つ。その実験学習の経緯・結果は、よって、生体との類似性の考察に基づき実施されるものである。単なる特殊技術の学習として扱ってはいけない。
なぜそのようなことが可能か・体の中でもそうなのか、という姿勢が必要となる。
 それで細胞培養実験は重要である。実体と概念の連立連携は生物学習の理念であり、本編に基づきはじめの一歩を経験すれば、少なからず多様な取り組みが可能となる。例えば、前出のお絵描き実験に加え、浸透圧実験、分裂細胞の観察、細胞周期解析のための染色標本の作製、環境毒性物質の評価、ウイルス実験学習など。つまり、本格的な細胞培養技術の習得も必要とするが、それらに対する視野が付加されること自体が重要と考える。生命科学社会の現状を共有するためにも、実施の有無にかかわらず、培養細胞の重要性を実践学習の場においてもそれなりに共有することは重要と考える。
 終わります。読んでくれて有り難う。
 
専門的な観点から「細胞培養&培養細胞に関わる資料」は別サイトを参照とする(ココをクリック)。
本編は以上です。

実験学習に向けた「細胞培養・培養細胞・細胞培養実験の考え方」を別シートで参照するときは左記文字列をクリックしてください。

おわり

 

本編は以上で終わりです。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.49   中 Fig.50   右 Fig.51) 
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<52-54>

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.52   中 Fig.53   右 Fig.54) 
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<55-57>

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.55   中 Fig.56   右 Fig.57) 
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<58-60>

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.58   中 Fig.59   右 Fig.60) 
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